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連載 第一章 最終回 

ここまでのお話については、「美海の子育て奮闘記、四話」をどうぞ。

第一章最終回 五話

次の休日、涼とから揚げ専門店「とりあげ」に足を運んだ美海は、店に入るやいなや、いや~な重苦しさを感じた。オーダーを取りに来た店員さんもなんとなくそっけない。何より看板商品唐揚げ定食「とりあげくん」の味が以前とはちがっている。

涼も「とりあげくん、なんだかおいしくないかも。」という。
「とりあげくん」になにがあったんだろうか。

箸をおいて、もう一度ゆっくり店内を見まわしてみる。

お昼時が終わっているからかもしれないが、10テーブルのうち、お客さんがいるのは2つだけ。フロアーに店員の姿はない。予想以上に静まり返った空気は、これからここで食事をしていいのだろうか、と不安に思えるほどだ。

以前は注文をすると、店の奥にある厨房から、すぐに「シュワシュワ」と揚げ油の音が聞こえてきた。「あれ、わたしのとりあげくんかな」なんて思って耳を澄ましていると、その音は、「チリチリ、ピチピチ」といった高いものに変わり、カラっとした衣を思い出させてくれる。でも、今日の厨房からはそんな音は聞こえてこない。と、まもなくテーブルに「とりあげくん定食」が運ばれてきた。もしかして、作り置きのものなのか、と思ってしまう。

お店とお客さんをつないでいるのは、「御用の際はこのボタンをおしてください」と書かれている、手のひらサイズの押しボタンだけ。

美海は「これはなんとかしないと」と思った。

この鶏肉どこからきたのかな

鶏肉について

涼は最近、目にするものの産地を知りたがるようになってきた。これが習慣になれば、産地を知るだけでなく、その食材がどうしてそこでつくられているのか、気候や産地の特色、さらには産業にまで興味を広げることができると思う。

とりあげくんって、どこからきたのかなあ。

メニューに書いてあるんじゃない。

(メニューを手にして)「とりあげくん定食」は…、産地だよね。書いてないよ~

会社でまた調べてみるけど、たぶんここの鶏肉は、ブラジルか、タイから輸入してるんじゃあなかったかな。

ブラジルかタイ…、日本の鶏肉じゃないんだ。

(メニューを見ながら)国産じゃあないと思うな。(視線を涼に向けて)ちょっとむずかしいんだけど、日本はいくつかの国と、貿易をするときの約束を取り決めててね。鶏肉だけじゃなくて、豚肉や牛肉も安く手に入るようになったんだよね。だから、鶏肉も安いブラジルとタイからのものを使ってるんだよね。

日本の畜産業は、採算性の点や農村の人口減少などから、後継者問題を抱えています。また、TPP11やEUとのEPA(経済連携協定)、日米貿易協定などによって、安い畜産物が輸入できるようになりました。これらのことに加え、円安などが飼料価格を高め、さらには伝染病問題、コロナ禍による学校給食や外食の減少から、牛乳や乳製品の需要も落ち込んでいます。
2021年末には、一時、生乳の大量廃棄寸前まで追い込まれ、各地で生乳の生産抑制が行われました。

もう一点、お子さんとお話しておいてほしいのは、畜産業に対する政府の動きについてです。政府が目指しているのは国産畜産物の輸出促進です。
各地で地域資産を活かした畜産物のブランド化が進んでいることは、わたしたちが日々食料品の買い物で目にするものでも感じることができます。日本の畜産物は外国での人気があり、今後ますますその傾向が強くなると思われます。

つけあわせのダイコンについて

(つけあわせを手に取って)これって、ダイコンでしょ。このダイコンさんは、北海道からきたのかなぁ。 

それがね、2020年に千葉県が北海道をぬいちゃったのよ。だから、1位千葉県、2位北海道、3位が青森県になったんだよ。でも、このダイコンさんはどこ出身かはわからないけどね。

ちょっとダイコンさんに聞いてみようかな。(笑)

 ダイコンについての詳細はこちらでも紹介しています。

つけあわせのレモンについて

唐揚げにレモンをかけていいかな。

いいよ。お願いしまーす。(得意げな顔で)ママ、どうしてから揚げにレモンをかけるか、おぼえてる?

それね。え~、レモンは酸っぱいよね。油で揚げた唐揚げをさっぱりさせるから。

それだけじゃなかったでしょ。レモンの酸っぱさはお掃除のときに使うクエン酸がはいっているからだって。唐揚げにかけると酸味と鶏肉のおいしさを両方感じられるからだって。

そうそう。そうだったね。酸性と中性、アルカリ性も体験したよね。

レモンの花

日頃よく目にするレモンですが、レモンについて詳しく調べることは少ないですよね。レモンには自家結実性があるので、自分のおしべのやくについた花粉で実をつくるんですね。花が開花したときに、筆やティッシュなどで人工的に授粉をさせることができます。また、 花をよく観察してみると、雌しべがない不完全花のことがあります。そんな花は実をつくれないので、落下してしまいます。

レモンの輪切りから平面図形を体験

円周、直径、半径、おうぎ形、中心角度…

注文の料理がそろうまでの時間を使って、レモンのお話はいかがですか。今回ご紹介しているのは、平面図形を体験できる具体例です。ちょっと意識してみると、日常に円形のものはたくさんあります。レモンで体験、その後、くり返し反復体験ができるのもいいですよね。

「とりあげ」の問題は涼の家庭学習にも

美海は全国チェーンのから揚げ専門店「とりあげ」が直面している問題は、涼の家庭学習や体験学習にもつながっているような気がした。

お店の人たちからは、やる気は感じられない。仕事って大変でも「楽しくなくちゃ」。その「楽しさ」を見つけられないんだと思う。

涼の場合で考えると、できるだけ自然に身につくようにいろんな体験をさせているけれど、やっぱりわたし(「大人」)があらかじめ選別されたものばかり。最近の涼の話すことや興味を持つことを考えると、わたしの工夫は無駄ではないと思う。いや成果は出ていると思う。でも、4月から小学校へ通うようになれば、完全に大人主導。その上、「大人」が選別し、与えたものがきちんと頭の中に納まっているかどうかを「テスト」という方法で定期的に確認される。それが12年も続く。気をつけないと涼の体験や学習も、与えられたものをこなすだけになり、「勉強はやらなければならないけれど楽しくないもの」になってしまう。

お店の人は対価を得るためだけに働くのではなく、そこに「楽しさ」を見出せるようにしなければならない。

涼の場合も、テストで点数を取ること、合格するためにがんばるのではなく、「これ大変だけど…やってよかった」「知識との出合は楽しいね」「へぇ~、そうなんだ」、そんなことにつながっていく学びをさせてあげたい。

それには、お店の人も涼も、自身が興味を持てるように工夫すること。涼の場合は、「大人」が提案したものではなく、そろそろ涼の興味からスタートし、すそ野を広げられる体験を工夫してあげないとダメだということなんだよね。

また、から揚げ専門店「とりあげ」というお店は、空腹を満たすだけの食事を提供するのではなく、「楽しい時間を過ごす」「おいしいねと感動する」、使った時間と費用が活かされていると感じられる、そんな店づくりやメニューの提供をしなければならないんだよね。

美海は「とりあげくん」をパクリとほお張って、涼を見てにっこりと笑った。

さて、美海は全国チェーンのから揚げ専門店「とりあげ」をどのようにして建て直していくんでしょうか。また、涼の日々の体験学習はどのように変化していくのでしょうか。続きは次回ということで…。


第一章 はこれにて終わりです。幼児をお持ちのご家庭での子育てに、少しでもヒントになればと思います。また、この続きは後日公開したいと思います。お楽しみに…。

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