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連載 第一章 第二話 

オムライスでまるっと体験

1. このお話について

 フルタイムで働いているママの子育ては、ある先生が発した「子どものやる気は過去の体験に紐づいています」という言葉で大きく変化します。そこで忙しい中、ママは「体験ができるよう」家の中に無数の工夫を施します。また、親子でクッキングと称して、料理や掃除をしながら体験ができるよう工夫を実践しはじめたのです。この連載では、先行体験の具体例の紹介と並行して、先行体験がどのように活用され、どのように子どものやる気スイッチをオンにしていったのかをご紹介していきます。実際にお母さまたちが発案し、実践してきたものばかりですから、今日からでも、すぐにお子さんに実践できます。ぜひ、ご活用ください。

第一章終了まで無料(無料配信終了後は550円/1話)
配信は月1回/月末
第3回配信は12月末日 

第一章 第二部
 5歳の涼、(見取り図Cゾーン)キッチンで体験を

 フルタイムで仕事をしていると、夕食を作る際に翌朝の準備をしておかないと子どもとの時間を捻出できない。そこで1週間の献立は、スーパーからスマホに送られてくるチラシを参考にして決めている。一週間分のメインの食材は土日に買うようにしている。翌週の献立やそれに必要な食材は、毎週金曜日のお昼休みを使って考えている。

 
 今日は金曜日、取引先の工場に出向く仕事が入ったので、地下鉄とタクシーで40分ほど移動時間がある。

(スマホをのぞく美海)ほう、今週は鶏肉と生鮭、ブロッコリーが安いんだ…。

 じゃあ、(スマホのメモを取り出して)
 ★月曜日の夕食…オムライスとミネストローネ
 ミネストローネは週のうちにもう一回作りたいから、次回分の材料を一緒にそろえてセッティングしておこうっと。それから、火曜日の朝食はパン食だから、オムライス用の鶏肉の処理をしながら、朝食用の照り焼きの用意をすればいいね。それとお味噌汁の食材もセッティングしておこう。

 鮭は2回に分けて使う。
 ★火曜日の夕食…洋風鮭とポテトのコンソメ炒めとミネストローネ
 
 火曜日の夕食を作りながら水曜日の朝食用の鮭に塩、コショウ、衣をつけておく。
 朝はそれをフライパンで軽く焼いてムニエルにしよう。

オムライスの材料(2人前)

  • 鶏もも肉 90g
  • コショウ
  • 白ワイン
  • タマネギ 80g
  • マッシュルーム 4個
  • サラダ油 小さじ1
  • ごはん  200g
  • サラダ油 小さじ1
  • トマトケチャップ 大さじ3
  • コショウ
  • 卵(生食用) 4個
  • 塩 
  • コショウ
  • バター 15g (5g×3)
  • トマトケチャップ

美海のレシピ集
子どもの「やってみよう」「あっ、これ知ってる」という「やる気スイッチは、過去の経験に紐づいています」という言葉を聞いたころは、産休をとっていた。そこで、親子クッキングを想定して、レシピを作成。現在5歳になった涼と、それを使って料理をしている。

買い物のあと、食材を処理するときのひと工夫

鶏のモモ肉 

土曜日、買い物から帰ると美海と涼は1週間の献立に合わせて、準備ができるものにかぎり、分別したり、使いやすいように切って保存している。

涼、月曜日の夕食のオムライスに使う鶏肉って何g必要だったかしら。

え~っと、90gだよ。

じゃあ、ここから90gを計ってくれるかな。

はかりの上にラップを敷いて、涼がお肉を計る。

(タマネギを手に取って)涼、たまねぎさんの産地チェックお願いします。

は~い、北海道です。

タマネギの産地の80%は北海道ですが、今回購入したタマネギの産地も北海道。
美海はキッチンのCゾーンにつるしたコルク製のボードに購入したものの産地ラベルを貼るようにしている。

■今回の食材の産地リスト

  • 鶏肉…  鹿児島県
  • タマネギ…北海道
  • 生鮭…  チリ産
  • トマト…  茨城県
  • 牛乳…   栃木県
  • 卵…    千葉県
  • キュウリ… 埼玉県
  • バター…  北海道
  • キャベツ… 群馬県
  • ロースハム 

ボードの横には日本地図があり、産地が外国の場合は、地球儀で確認しています。

▢タマネギの重さと「分数」体験

タマネギ…80gだったよね。

まるまるとしたタマネギをはかりにのせると120g。

 

(美海はぶつぶつひとりごとをいうように)80gは120gの3分の2。このタマネギを3つに切った2つ分ね。(タマネギをまな板の上において)3つに切るってことは、中心から120度くらいのところだから、時計にいうと「12」から「4」くらいか。(そいういいながらたまねぎを時計の文字盤に見立てて、)ここが「12」だから「4」はこのあたりね。(そういって、2か所に包丁を入れて3分の1を切り出す)(切り取ったタマネギをラップでくるみながら)これは次の時に使いたいから水分が蒸発しないように、ラップにくるんで冷蔵庫の野菜室にしまおうね。

「分数」「小数」「割合」との出合いが「机上で初めて」とならないよう日常生活の中で「慣れていく」ように工夫しています。ただ、美海自身が母親の話を聞くとき、「親の話を理解しないと」「間違えたらどうしよう」そんな気持ちばかりが先行してしまった経験から、涼くんには教えようとしない。まずは親自身が実践し、それを見せるようにしているんですね。「習うより慣れろ」を徹底しているようです。

涼は美海の動作をじっと見ている。

▢たまねぎはどこを食べるの

タマネギについては、可食部がどの部分にあたるかが設問になることが多々あります。タマネギは「葉」の部分を食べています。
下の写真の茎(芯)の部分をよく観察してみると、芯の外側に重なり合って玉を形成している食用部分があります。その部分が葉なんですね。ですから、書籍によってはたまねぎは「球根」の部分を食べるというものもあります。中学受験では「葉」の部分を食べるきゃべつや白菜と同じように扱われます。

ママ、タマネギの下のところは根っこなの

ある日、購入してきたタマネギを見て涼が「根」に興味を持ちます。

そこで美海はタマネギの水栽培を開始。すると、タマネギの下の方からたくさんの根が、上からは緑色の葉が出てきたのです。そこで美海はインターネットを使って、タマネギの可食部がどこなのか涼と一緒に調べることにしました。

えっ、タマネギって実じゃないんだ。葉っぱなの。緑じゃないし、葉なのに、なんでこんなクルクル巻いちゃったの。

ここに理由が書いてあるよ。

ママ、読んで~

え~っと。タマネギが生まれたのは中央アジアなんだって。(地球儀でアフガニスタンやカザフスタン、モンゴルのあたりを指さして)この辺りだね。この辺はあまり雨が降らない乾燥地帯なんだって。だからタマネギさんは「乾燥しないように、乾燥しないように」って葉が肩を寄せ合っているうちに重なりあって玉になったんだって。

へぇ、タマネギさんもいろいろと大変なんだね。

タマネギが軒先につるされて干してあるのをご覧になることがあると思います。それは乾燥に強いからなんですね。乾燥に強いから長期間、保存することができるんですね。また、タマネギの葉は乾燥地帯の厳しい環境を乗り切るために葉に養分を蓄えようとした。だから葉が厚くなっているそうです。たまねぎを1枚はがしてみてみると、「葉」にしては厚いと感じますよね。
(タマネギについては、食材として使うときにくり返し取り上げましょう。少しずつ内容を変えて体験できるようご紹介していきます)

化学を体感させる

(タマネギを切るのを見ながら)ちょっと目がいたいよ。これって、タマネギさんが「切らないで~」っていってるんでしょ。

そうだね。ママも泣いていますよ。(美海も涙目になっている)
これはね、タマネギの中にあるものが外にでてきて、「切らないで~」「これから芽を出して新しいタマネギをつるくんだから~って」って、涙が出る成分を発射して抵抗しているからなんだよ。でも、タマネギはおいしいから負けずに調理するけどね…。

タマネギを切ると細胞がこわれて、細胞の中にある「アリイン」という物質が細胞の外にしみ出てきます。そして、このアイリンは細胞の外にある酵素によって化学反応を起こし、揮発性の催涙物質に変化するそうです。
この物質は温度が低いと揮発しにくいので、切る前に冷蔵庫で冷やしておくといいかもしれません。

涼のパパからの電話

そのとき、LINE電話の着信音が。涼の父親、階堂充からだった。涼は父親を知らない。涼を身ごもったとわかったあと、充も美海も東京本社への移動を命じられた。でも、二人が結婚をしていたことを知った本社は美海の本社勤務への内示を取り下げ、子会社への出向を命じた。この会社は、日本の先頭を走る一流企業であるはずなのに、夫婦で同じ部署で働くことをよしとしないのか。そして、どうして充ではなく、わたしが…。きっと女性だからという条件が働いたにちがいない。美海は悔しかった。そして、もっとつらかったのは、充が会社に対して抗議も交渉もせず、ただただ傍観していたことだった。傷ついた美海は伯母や友人のいるニューヨークに行く決心をし、充と離婚した。そして、どこに行くかも、また涼を妊娠していることもだれにも言わずに姿を消す形で会社を辞めた。

 H社本社では、美海と充の結婚を知る人はほとんどいなかったので、栄転なのにどうしてやめたの。もしかして失踪…。と美海についてのいろんなよくないうわさが飛び交ったようだった。

 美海はニューヨークで涼を生んで、育てながらキャリアを磨いていった。涼が5歳になったころ、なんと美海はH本社からヘッドハンティングされたのだ。美海はこの話には充が関与しているのでは、とも考えたが、5年という月日は美海を大きく変えていた。涼のことを第一に考えればいい。わたし流のやり方で与えられた仕事を成功させればいいんだ。こうして美海は涼を連れて帰国したのだった。

ママ、電話でないの?

スマホを手に、いつもと様子のちがう美海を見て涼がたずねた。美海はその言葉にハッと我に返ったように電話にでる。

はい。木島です。いえ、大丈夫です。はい、その件ならすでに運搬部と話がついているんですが…。えっ、それはどうしてですか。今更できないって言われても、すでにフランチャイズのオーナーさんたちは新製品の開発に取りかかっています。

 電話を切った美海は、

(美海を心配そうにみる涼)部長さんからだった。

なにもなかったように振舞う美海だったが、心の中は複雑な思いでいっぱいだった。


 さて、美海と涼はオムライスをつくりながら、このあとどんな会話をするのでしょうか。また、美海は仕事でどんな難題を背負ってしまったのでしょうか。続きは次回にて。

第3回の配信は12月29日です。
 美海家のⒸゾーン・オムライスのお話PART2です。お楽しみに…

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