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目次
1. ここまでのお話について
主人公美海は5歳の息子を育てながら、フルタイムで働いている。その子育てはワンオペ。1日が48時間あっても足りないくらいだけど、さまざまな工夫で、息子涼の知的好奇心を刺激できる工夫を生活に取りこんでいく。海外で仕事をした経験から、知識や学力も大切だが、それを操る精神力や工夫力の大切さも痛感している。そして、「与えられたものをこなすのではなく、自分から問題を見つけていくこと」が大切だと考えている。日本には入試があって、1度のチャンスでその先の数年間や、与えられる学びや体験がちがってくる。そのことへの対策もこれから考えていこうと思っている。
美海は小さいころ、母から「女性は…でないと」「○○はしてはダメ」「どうしてそんなことになるの」「なぜわからないの」などと言われてきた。そんな母のことばのひとつひとつが、子ども心に嫌だった。だから、子どものころの美海は、なんとかして母に喜んでもらおう、認めてもらおう…今思えば、そんなことばかりを考えていたように思う。当然、学校での人間関係にも、その習慣が影響した。人から頼まれると嫌と言えない。人と違う意見をいうことは、よくないからと同調した。自分のやりたいこと、思っていることは後回しにして、「褒められるにはどうしたらいいかなぁ」「喜んでもらうにはどうしたらいいかなぁ」「こんなことを言ったら悲しませる。落胆させるしまうのでは」…そんなことを無意識に考えてしまう少女時代だった。
そのおかげでというとおかしな話だが、成績は常に上位だった。大学も母たちが喜ぶ学校を選び、そこで卒なく学び、友だちを作り、そして何かに流されるように総合商社であるH社に就職をした。H社に内定が決まったとき、母は大いに喜んでくれた。今でもその笑顔は忘れられないが、ホッとしたからか、美海の中でプツリと糸が切れてしまった。
一流企業に就職したといえば聞こえはいいが、入社してすぐに自分に出来ないことがどれほどあるかを思い知らされた。上司からの指示にも「わかりません」と言えず、「期待に添えなければ」「断ったらあとが…」と、失敗を重ねた。上司や先輩たちの、美海に対する評価はあっという間に、小さくしぼんでしまった。
自分はなぜここにいるんだろう。どうしてこんなことができないんだろう…、自己肯定感がどんどんと低下し、入社半年で、美海はすっかり自信をなくしてしまっていた。たった1年足らずで、会社はそんな美海に、ベトナム工場への異動を命じた。
明日は月曜だから、夕飯はオムライスだね!
涼の楽しそうな声が聞こえてくる。最近、美海は夕食の献立を、曜日で固定するようになった。その理由は「習うより慣れろ」を大切にしているから。
美海は、体験には大きく分けて2種類あると考えている。
ひとつは、1度の体験で涼にグンとエキスやヒント、力を与えてくれるもの。
もうひとつはコツコツくり返すことで涼の中で少しずつ姿を現すもの。
今の涼に必要なのは後者だと考えている。
(月曜日夕食を作ろうとキッチンに立って)まずは、なんだっけ?
たまごでしょ。たまごを割って、かきまぜて、フライパンで焼くんだよ。
そうそう。ありがとう。たまごを割ってくれるかな。
たまごをかき混ぜながら…
(たまごを割りながら美海が作った歌を歌う)たまごの殻はカルシウム、中身はタンパク質、タンパク質はからだをつくる…。
そうそう、バターもチーズも、氷も、アイスクリームも、鉄やアルミニウムだって熱を加えれば溶けるのに、たまごはどうなるんだっけ。
固まるんだよね。溶けないで固まるんだよ。それはタンパク質だからでしょ。
そうだった。タンパク質だからだね。
タンパク質は、お肉に入ってるんだったっけ~
お肉にも、豆腐をつくる大豆にもはいってるんだよね。
お肉でいいんだ。そういえばお肉も焼くと硬くなるもんね。タンパク質だからかぁ~
ほんと、そうだね。
タンパク質の性質は、熱すると中の水分が追い出されて固まるという性質をもっています。中学受験では、人体に関する問題がよくでます。タンパク質の分解については「い・すい・ちょう」と言われ、胃液(ペプトンという消化酵素)→十二指腸(膵液)→小腸(腸液)の順で分解され、アミノ酸になって小腸の柔突起、柔毛から毛細血管に吸収されていきます。美海も、お肉を食べながら、涼と「い・すい・ちょう」なんて語呂合わせを楽しむような会話をしていました。
また、別の機会(料理や買い物の際)には、タンパク質は胃で胃液のペプトンシャワーを浴びてドロドロにされて、つぎに十二指腸というところで膵臓でつくられた膵液をあびて、どんどん小さくなって、つぎの腸液を浴びて、最後に小腸ジェットコースターで栄養をどんどん涼のからだの中に吸い取られて…。そのあとは大腸で汗をかいてうんちになりました。なんて話をしたこともありました。
フライパンを熱して、油をひいてたまごを流し入れましょう。
(たまごを流し入れながら)ところで、これって直径何㎝の卵焼きができるんだっけ…?
この間、モノサシで直径を測ったでしょ、ママ忘れたの?26㎝でしょ。
そうだっけ。よくおぼえてるね。
オムライスの材料(2人前)
この鶏肉って、産地はどこだっけ。
涼は見取り図ないのCソーンにあるボードを確認。買ってきたのは、先週の土曜日(18日)。その日に買ったもののラベルがボードに虫ピンで止めてある。
これは…(産地の都道府県名を確認しながら…)え~っと「鹿」これは…かご、鹿児島県だ。
あら、そんな高級なお肉買っちゃったんだ。やっちゃったねぇ~
ママ、またラベルを確認しないで買っちゃったの。だめだよ。
H社は総合商社。仕事は多岐にわたるっている。美海が所属しているのは、充が部長を務める経営企画本部。H社のいくつかの部署をつないで仕事を企画し、問題にも解決策を見出して対応していく。H社にはH社が運営する飲食チェーンは数多くあるが、今、そのひとつ唐揚げチェーン店「とりあげ」の売り上げが芳しくない。SNSでも味が落ちてきた。サービスがよくない。などの書き込みが増えてきている。それを受けた取締役会は経営企画本部に対して、3か月以内に売り上げ回復への策を提案するよう指示を下した。もし、打開策が見つからない場合は、このチェーン店を売却することになる。充はこの案件のリーダーに美海を指名した。美海はまず、実際に店に足を運んで料理を食べてみることにした。
さて、今回は美海と涼の親子クッキングのお話でした。なんだか楽しそうですね。5歳の涼くんとの時間は今しかない。そんな気持ちが美海に力を与えてくれているのでしょう。わが子との何気ない日々は、親子どちらにも宝になる日がくるのですからね。とはいえ、美海は仕事でも難題を抱えたようです。涼からパワーをもらった美海は、この難局をどのように乗り越えていくのでしょうか。続きは次回にて。
🔲第一章 第4話の配信は受験期につき2月初旬の予定です。
美海家のⒸゾーン・オムライスのお話PART3です。お楽しみに…
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